「パニエ、パニエーー、 パニエ、パニエーーー。」
(パニエはフランス語で”籠”の意味)
青空の下、パニエ係の声が風に乗って広い葡萄畑に響き渡る。
コート・ド・ボーヌの南にある美しい村マランジュはヴァンダンジュ<収穫>の最盛期を迎えていた。

「ヴァンダンジュに行こう。」
立春もまだの今年の1月、夫が言ったこの言葉が全ての始まりだった。
冗談だと思っていたのにいつの間にやら水面下で話は進行、かくして私たちはフランスへ旅立った。その後のことは今までご覧いただいたとおり。
さて現地時間の9/20、ボーヌでの観光の後私たちはローカル線で15分のシャニー駅へ移動。夕暮れの駅で迎えを待つ私たちの前に素敵な女性が車に乗って現れた。
「ようこそいらっしゃいました。」
歓迎の言葉と共に軽やかに車から降り立ったのはシュヴロ・かおりさん。かおりさんはブルゴーニュに三人いると言われる日本人マダムのお一人で、ご主人はマランジュの名門ドメーヌ・シュヴロの三代目パブロ氏。お二人の間にはかわいいアンジェロ・大地君がいる。
実はかおりさんと私たちの間にはある共通の人物がいて、その方のお取計らいとシュヴロ家のご好意により今回のヴァンダンジュ体験訪問(3日間)が実現した。大変ありがたく幸運なことである(お名前を出すことには了解をいただいております)。ではドメーヌの前に掲げられた看板の写真をば。
ワイン好きの方なら「クレマン・ド・ブルゴーニュ」というスパークリングワインをご存知だろう。ブルゴーニュではいろんな作り手が競うように作っていて、シュヴロ家もその一つ。シュヴロ家のクレマンはとてもおいしく、ワインの専門雑誌「ワイン王国」で4つ星を獲得した。シャルドネやアリゴテで作られる白、ピノ・ノワールで作られる赤もとてもおいしい。
ドメーヌ・シュヴロのサイトはこちら。
かおりさんの「ブルゴーニュのフランス流ワイン生活」はこちら。
是非アクセスをお願いしますm(__)m。シュヴロのワインもお店で見つけたら飲んでくださいね。
さて私たちはかおりさんの案内でまずはドメーヌへ。一通りの説明を受けた後、近くの宿にチェックイン。その夜は他のメンバーと顔合わせの後、翌日の収穫に備えて早く眠った。
収穫の朝は7時40分にドメーヌに集合しバンに乗って葡萄畑に向かう。
ハサミと籠を渡され段取りを教えてもらって、いざヴァンダンジュ作業へ。
「おぉ、これがワイン用の葡萄なのね(わくわく)」などと浮かれていた私だが、その気分は最初の5分で吹き飛んだ。
とにかく重労働。しゃがんで横に移動しながら葡萄を切り取り籠に入れていくのだが、変なにおいのするカビやしおれた実などはその度にハサミで取り除かなくてはならない。そして葡萄を入れる籠(パニエ)はどんどん重く持てなくなっていく。しかし周囲では皆がすごいスピードでどんどん切り取っていく。遅れないようについていくのが精一杯。
それでも女性は摘むだけなのでまだ楽。男性はもっと大変だ。パニエ係(摘み取り作業メンバーへの指示をするリーダー)が背負った大きなじょうご型の入れ物(身長165cmの私でも入れそうな大きさ)に葡萄が一杯入った籠を持ち上げて入れる作業が加わる。そしてパニエ係は冒頭の掛け声でみんなの籠を集めながら、背中の入れ物が一杯になると、収穫用のトラックへ葡萄を運ぶ。次から次へと運び込まれる葡萄で一杯になったトラックはすぐにドメーヌへ戻る。葡萄が傷まないうちに圧搾作業に入るためである。
渡仏前「ヴァンダンジュは大変だよ。」と聞かされていたので、日本を発つ前それなりに体力づくりも覚悟もしてきた。だけど見るとやるとでは大違い。生半可な気持ちでは続かない作業である。ブルゴーニュの生産者は誇り高いとよく言われるが、その理由が少しわかった気がした。機械で収穫を行うところもあるがシュヴロ家では全て手摘みで行う。これも品質第一を貫く生産者の誇りである。
ヴァンダンジュの作業は2時間やって15分ほど休憩、また2時間やって昼休みが1時間半ほど。そして午後も2時間+休憩時間+2時間の作業が続く。その休憩時間の写真がこれ。
作業は大変だったけど、楽しいこともたくさんあった。陽気な一部のメンバーが口ずさむ歌が雰囲気を和ませ、葡萄にかぶりついた黄色いカタツムリにどきっとした。そして時折「食べてごらん」と渡される葡萄。「ワイン用の葡萄はおいしくない」と聞いていたが全くそんなことなし。丹精込めて育てられた葡萄はどれもとてもおいしかった。食べておいしくなければ良質のワインなんてできっこない。一度味わうとどんなワインができるのかな、と夢は膨らむ。今振り返っても貴重な体験をさせていただいたと思う。
夕方6時過ぎに作業は終了。皆と一緒にバンに乗ってドメーヌへ戻った。何事もそうだが初日はやっぱり大変。私も夫も緊張と疲れでよれよれだった。「なんとなくわかってきたから明日はもうちょっと要領よくやろう。」と思いながらその夜も早く寝た。
もっともそのやる気が空回りし、二日目の午後私は作業をリタイアしてしまうのだけど。
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